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2012年5月 2日 (水)

短編対話『退屈なふたり』

「…ねえ。」
「…うん?」
「…つまんないね。」
「うん。つまんないね。」
「どっか行く?」
「いいよ。どこ行く?」
「どこ行こうか。何か宛てある?」
「とくに宛てはないな。君は?」
「ぼくもないな。」
「それじゃ行けないね。」
「そうだね。ここにいるしかないね。」
「そうだね。」

「…。」
「…でも退屈だね。」
「うん、退屈だね。」
「どうする?どっか行く?」
「外はすごい雨だよ。」
「しかもこれからどんどん強くなるみたいだね。」
「でも、ずっと部屋にいるのも退屈だよね。」
「どこかへ行ってみる?雨だけど。」
「そうだね。雨だけど。とにかく退屈だからね。」
「どこに行く?」
「どこに行こうか。」
「困ったね。」
「困ったなあ。」
「…ぼくら、いつもこうじゃない?」
「そうだね。いつもこうだよね。」
「どこかに行こうかって話にはなるのにね。」
「結局どこにも行かないよね。」
「なんでだろうね。」
「なんでそうなっちゃうんだろう。」
「もしかすると、行く宛てがないからかな。」
「…なるほど。もしかしたらそうなのかも知れないぞ。」
「ぼくら、いつも行く宛てがないから。」
「行く宛てを先に決めておけばいいんじゃないかな。」
「それは良いアイデアだね。行く宛てを考えてみよう。」
「…。」
「…。」
「…何か思いついたかい?」
「いや、まだだな。きみは?」
「ぼくもまだだよ。」
「そんなにすぐに思いつくなら、最初から退屈しなかったんじゃないかな。」
「そうかも知れないね。もう少し考えてみようよ。」
「そうしよう。」
「…。」
「…。」
「…もしかして…。」
「どうしたんだい?」
「もしかして、足りないのは行く宛てじゃないのかも知れない。」
「どういうことだい?行く宛てはいつもないじゃないか。」
「確かにそれはそうなのだけれど。もっと別なものがあれば行く宛てが無くても大丈夫なんじゃないかな。」
「別なものってなんなんだい?」
「言葉にしにくいんだけど…例えばテンション、とか。」
「なるほど。テンションか。確かにぼくらはテンションが低いよね。」
「きみも気づいていたのかい?ぼくらはあまりにもテンションが低すぎると思うんだ。」
「確かにテンションが高ければどこかにバーッと行けちゃうんじゃないかって気もするね。」
「特に行く宛てがなくても、バーッと勢いだけでね。」
「そう。バーッと。」
「試しにテンションをあげてみないかい?」
「出来るかな。難しそうだよ。」
「まあ、一回やってみよう。」
「じゃあ君からやってみてくれないか?」
「よし。じゃあ行くよ。…ぃよっしゃあ!!
「…なぜ、よっしゃあなんだい?」
「なぜだろう。意味は特にないな。それより君の番だよ。」
「そうだね。それじゃ…んなんだよもう!!
「…どういう意味だい?」
「意味なんてないよ。」
「イマイチ盛りあがらないね。」
「確かに。なんでだろうか。」
「まだテンションが足りないのかも知れないね。」
「よし、それじゃ二人一緒にやってみないか?」
「いい考えだね。でも、何て叫ぼうか?」
「なんだっていいんじゃないかな。」
「そうだね。それじゃいくよ。」
ゥウオオオオオッ!!
ゥワアアアアアッ!!
「…どうだった?」
「うん、割りとよかったかも知れない。」
「実はぼくもそう思ったん。」
「もっとがんばればもっとテンションがあがるんじゃないかな?」
「限界までがんばってみよう。いくよ。」
ッシャアアアアアアアアアア!!!
ッシャオラアアアアアアアア!!!
「いいかんじだよ。」
「うん、かなりいいかんじだね。でも限界も見えた気もする。」
「これ以上テンションを上げるにはどうすれば良いんだろうか?」
「もしかしたら感情が伴っていないからかな。」
「そうか。ぼくらは今何の脈絡もなく叫んでいるだけだものな。」
「正当な理由があればもっとテンションが上がるかもしれないな。」
「そうすると、この部屋にいるんじゃ限界があるよ。」
「そうだね。限界がある。…となるとやっぱりどこか行く宛てが必要ってことか。」
「結局そこに行きつくのか。」
「行く宛てがなくても行動できるように、テンションを上げたい。」
「でもテンションを上げるには相応の場所が必要。」
「結局行く宛てが必要ということだね。」
「これはジレンマだね。何か名前を付けたいな。」
「叫びのジレンマというのはどうだろう。」
「うん。いい名前だね。しかし待てよ。」
「どうしたんだい?」
「さっきまでぼくらは闇雲に行く宛てを探していたね?」
「そうだね。闇雲だった。」
「しかし今、ひとつ条件が付いたじゃないか。」
「確かにそうだ。テンションを上げられる場所という条件が付いた。」
「これなら案外あっさり思い付くんじゃないかな。」
「よし、それじゃ考えてみよう。」
「…カラオケ?」
「確かに。カラオケなら叫ぶ理由があるね。」
「今までのぼくらにはなかった発想だよ。」
「すごいな。叫びのジレンマのおかげだね。」
「これを叫びのジレンマ効果と呼ぼう。」
「行く宛てができたね。これで退屈から脱出できるじゃないか。」
「よし。それじゃカラオケに行こうか。」
「…しかしちょっと待ってよ。」
「どうしたんだい?」
「本当にただカラオケに行くだけでテンションがあがるのかな?」
「叫べばテンションがあがることは証明されたじゃないか。」
「きみは何を歌うつもりなんだい?」
「…なんだろうね。ちょっと思いつかないな。きみは何を歌うの?」
「ぼくも思いつかないんだ。」
「カラオケに行ってから考えるのじゃだめかな。」
「ぼくらに本当に決めることができるのかな。」
「…そう言われると自信がないな。テンションがあがるどころか考え続けて時間が終わる可能性がある。」
「だとしたらこの雨の中出かける意味がないじゃないか。」
「そうだね。この部屋で考えていても同じことだもんね。」
「わざわざ雨に濡れに行くようなものだ。むしろテンションがさがると思うよ。」
「…ちょっと待ってくれよ。」
「どうしたんだい?」
「雨のなかっていうのはどうだろう。」
「雨のなか?」
「テンションの話だよ。雨のなかで叫んだらテンションあがるんじゃないかな。」
「なるほど。雨の音に負けないように叫ばなきゃいけないからね。」
「必然的に大きな声を出すことになると思うんだ。」
「…いっそのこと、傘をささないっていうのはどうかな。」
「傘を?傘をささなければ濡れるじゃないか。」
「でも、雨に濡れながら叫んだらテンションあがらないかな?」
「…確かにそれはあるかも知れないぞ。かなりテンションがあがる気がする。でもいったいどこで?」
「よし。雨に濡れながら叫べる場所を考えてみよう。」
「そうだね。考えてみよう。」
「…。」
「…。」
「…そんな場所あるのかな?」
「…公園…とか?」
「通報されるんじゃないかな。」
「普通そうだよね。」
「そんな場所あるはずがないよ。どこで叫んだって通報される。」
「確かにね。そんな場所はどこを探したってないな。」
「残念だね。結局ここにいる他ないみたいだ。」
「本当に残念だね。退屈だ。」
「本当に退屈だね。」


2012年5月2日
AFCアジアチャンピオンズリーグ第5節

FC東京 4-2 ブリスベン・ロアー



〈この物語はフィクションです。〉

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豪雨の中のブリスベン・ロアー戦は平日、国立開催。試合早々に失点するも、高橋秀人のゴールですぐさま同点に追いつく天候に相応しい激しい展開だったが、最後には椋原のゴールと渡邊のドッピエッタで快勝。予選リーグ突破を決めた。

投稿: ISO-MIX | 2012年5月 6日 (日) 19時51分

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